ある日、いつも通りのある日、いつも通り姉さんが妙な服を持ってきた。
今回は真っ黒で帽子に布がついている、いつも通りよくわからない服だった。
やれやれ、そう思って受け取り着替えようとすると
「その服は明日の朝着てね、それで幽香に見せてあげなさい。幽香がくれた服だからね」と止められた。
珍しい、いつもはすぐに着替えて披露しなさいと言うのに。わかったわ、そう返事を返した時
「夢月」こちらをじいっと見て「・・・なんでもないわ、今夜はいい月ね」明らかに話を逸らしたが特に追及しなかった。
確かに窓から見える月は満月で、綺麗だった。
しばらくそのまま二人黙って月を見上げていた、ふと姉さんの顔を覗くとカナシソウな表情をしていた。
カナシソウ、私にはよくわからない現象。
そろそろ寝ましょう、明日の朝食はいらないわ、おやすみ、私のかわいい夢月。
静かにつぶやきいつも通りふわりと抱きついて、姉さんは部屋へ向かった。
私はもう一度月を見上げて、自室に戻り眠った。
翌日、言われたとおり新しい服に着替え幽香のいる夢幻館へと向かった。
ずいぶん動きにくい服で、厚手なので少し暑い。
夢幻館に着くと、いつも通りエリーが門番をしていた。
私が要件を言う前に門は開かれた。
おしゃべりなエリーが今日は顔を伏せ、何もしゃべらなかった。
正直会話は面倒なのでちょうどよかった。
そのまま中へ入ると私と同じような格好をした幽香が椅子に座っていた。
なんだ、今回は幽香とお揃いの服を着せて遊んでいるのかと理解した。
「夢月」静かな声で私の名を呼び、椅子から立ち上がり、なぜか幽香が私を抱きしめた。
そのまま数分経ったろうか、不思議だった。
「幻月のところへ、行きましょう」まただ、幽香がカナシソウな顔をして言った。
外へ出るとエリーとくるみがこれまた同じような格好で待っていた。
姉さんは何がしたいんだろう。
幽香を先頭に、私と姉さんの住む館へ向かった。
「幽香」「・・・何」「姉さんは何を企んでるの?みんなにこんな格好をさせて」
幽香なら知っているだろう、聞いてみた。
くるりと幽香が振り返る。なぜかその目は怒りを含んでいた。怒りはわかる。
「そうね・・・あなたのことだからしばらくは何もわからないわ、だけど必ずわかる日が来る。
それまでその服を着ていなさい」
姉さん以外に命令されるのは気分が良くない。
再び歩きだし、館に到着した。
扉を開けば姉さんが満足気に立っているだろうと思ったがはずれた。
姉さんの部屋へ向かう、ところで気づかなかったがエリーとくるみが大きな棺を担いでいた。
何に使うのだろう、その疑問はすぐにとけた。
姉さんはまだ眠っていた、なぜかいつものパジャマではなく
姉さんが持っている服の中で一番上質なものを着て。
眠っている姉さんを先ほどの棺へ、エリー達がゆっくりと収めた。
幽香が手のひらから百合の花をぽんぽんと出し、姉さんのまわりに並べていった。
姉さんはまだ起きない。
幽香が私に花を渡し、姉さんの胸の上に置くように言った。
やはり姉さん以外からの命令は気分が良くない。
しぶしぶその通り最後の花を置いた。
棺に蓋をし、エリーとくるみが担ぐ。
いい加減振動やらで起きてもいいはずなのに姉さんはまだ起きない。
行きましょう、幽香が言う。
行き先は夢幻館の花畑の見晴らしのいい小さな丘だった。
そこにせっせとエリーが穴を掘る。
私はただそれを眺めていた。
わからない。今日はわからないことだらけだ。
穴は次第に大きく深くなり、棺がちょうど入る大きさになった。
「夢月、幻月からこう言われたわ、今日から私達は幽香の世話になりましょうって」
姉さんがそう言ってたなら、仕方ない、いつもの気まぐれだろう。
棺が穴へ、運ばれる。棺に土が、かぶせられる。
完全に棺は見えなくなり、四角い石が立てられる。
幽香もエリーもくるみも、いつのまにか集まっていた妖精達もみなカナシソウな顔をしてその場にたたずんだ。
私だけがいつも通りの顔でいた。
まだ姉さんは起きない。
姉さんの言伝通り私は夢幻館に住むことになった、始めの頃は館に馴染むのに時間がかかり何かと忙しかった。
落ち着いてきた頃、もう季節も一周したころか、相変わらず姉さんは起きてこない。
私はまだ黒い服を着ている。
幽香はいつかわかる日が来ると言っていたけどそもそも何がわかるんだろうか?
窓から見える丘を眺めながら、そう思った。そう思っていた。
季節は巡り、ある日、もはやいつも通り姉さんの起きてこないある日、私は、理解した。
姉さんはもう二度と目覚めない。
姉さんはあの月の綺麗な日を最後に永遠の瞑りについたのだと、やっと、やっと理解したのだ。
私は部屋から飛び出し姉さんの瞑る丘へ走った、雨降る昼間息を切らし走った、辿り着いた。
私の今まで封印されてきたような感情が全てこみ上げてくる。
どうしてあの時気づかなかったのか、どうしてあの時気づかなかったのか。
私は、泣いた、悲しかった、もはや雨なのか涙なのかわからない、雨は涙。
雨が止んだころ、私の涙も枯れ果てた。
気配を感じ、後ろを振り返ると百合の花束を持った幽香がそこにいた。
無言で私に花束を差し出し、無言で受け取り、姉さんに捧げた。
それから私は懐かしい姉さんがくれたメイド服に着替え、夢幻館のメイドとして暮らすようになった。
幽香や妖精達とも仲良くなり、和やかな生活を送っている。
毎日の朝の日課ができた。
みんなで丘に瞑る姉さんに「おはようございます」と。 終わり